白髪岳にて2023

13年前の2010年、熊本県の白髪岳で仕事をしていました。

その時のシカによる植生被害は凄まじいものでした。

この山はもともとスズタケの繁茂するブナ林でしたが、シカに下層植生を食べられて、シカの食べない植物しか生えない状況でした。(上2枚は2010年その時の写真です)。

今回久しぶりに白髪岳を訪れる機会がありました。今はどうなっているのでしょうか。

 

なんとなくですが、十数年前と雰囲気が違います。なんか前より木々が多いかな?

違和感に気づきました。

なんとシカの防鹿ネットの中の植生が再生しています。上の写真の右側はネットの外なのでシカが草を食べてスカスカですが、写真左側は樹木の実生でもりもりしてます。

びっくりです。

ネットはたくさん設置してあり、中にはシカに侵入されて食べられている低木もありました。でもネットの外と比べて低木の繁茂量が段違いです。

ブナ林の林床のスズタケも再生していました。十数年前は50cmも満たない衰弱したものが点々としていたのですが、ネットの中では2m近くまで伸びて鬱蒼としていました。

熊本県などの九州中部のブナ林の特徴は、林床にスズタケが鬱蒼と生え、見通しのすごく悪い原生林だったと、昔の植生の文献や写真に描かれていました。

十数年前はこんな景色ありませんでしたが、今回は一部ではありますが、白髪岳の原風景(と私が想像していたもの)を見ることができました。

こんなにスズタケが密生しては、普通は他の植物が侵入・生育できません。ですが、寿命の尽きた大木が倒れ、スズタケごとひっくり返してしまいます(上の写真)。そこで生じたむき出しの地面に新たな草木が侵入・生長し、新しい環境を作ります。

こんな光景も見ることができました。

一緒に同行していた地元の方に聞いたところ、白髪岳周辺の自治体が積極的にシカの頭数を減らしてくれていたそうです。自治体の積極的な個体数調整とシカの防鹿ネットの効果が、白髪岳の植生・原風景を再生したよい事例と思いました。

今、九州各地のブナ林は、多くがシカの被害にあい、自然のままの植生景観を見ることができなくなっています。今なら、白髪岳のシカ柵内に自然状態に近いブナ林を見ることができます。機会のある方、是非見に行って下さい(その際は私もガイドしたいくらいです)。